言葉を取られた王様とお妃様

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翌日の朝、川北くんは学校にいなかった。嶋野さんに聞くと、おばあちゃんの体調が悪くなったそうで、昨日から田舎に行っているらしい。田舎というのはきっと、私たちが昔住んでいた場所だ。 意気込んで学校に来たから、肩透かしをくらった気になる。けれど、私は妙に落ち着いていた。今日じゃなくても、明日でもいい。次に会ったときに、ちゃんと川北くんに謝りたいと、そう決心していたからだ。 昼休みには、図書室へ向かった。ここに来るのは久しぶりだ。戸崎くんは、いつもと同じ席に座っていた。 私が斜め前に座ると、 「どーも」 とお決まりの挨拶。 「戸崎くん、ラスクさんじゃなかったんだね」 挨拶の代わりにそう言うと、戸崎くんはゆっくりと私を見た。 「そうだね」 その笑顔は、いたずらがバレた子どものようだ。 「誰だかわかったの?」 「うん、わかった」 「そう」 なぜだろう、戸崎くんはやけに満足しているように見える。そして、今まで見ていたような戸崎くんとは別人に思えた。
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