言葉を取られた王様とお妃様

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「それですぐに、実は作家を目指してるって話とか、そうなったきっかけとか、聞いてもいないのにいろいろ話してくれた」 戸崎くんはそのときのことを思い出したのか、笑いを堪えるように口元を押さえた。 ……そうだったのか、松下先生に聞かれていた、川北くんの夢。 「戸崎宗敏を紹介してほしくて、将真は僕にそんなことを言ったんだ。憧れの戸崎宗敏から小説の指導を受けたいって。父は、人付き合いは得意じゃないけど、僕にはとても甘いんだ。だから、僕が頼めばすぐに承諾するってわかっていた」 川北くんは、本当に作家を目指しているんだ。プロの小説家に指導をお願いするなんて、きっと並大抵な覚悟ではできないことだと思う。昔から、話を考えるのが好きだと言っていたけれど、"将ちゃん"がそんなふうに自分の夢を持っていたなんて、なんだか不思議だ。 「でも、ただじゃ嫌だから、条件つきで口利きを引き受けたんだ。僕にも将真の書いた話を読ませろって」 大人びている雰囲気があるけれど、そのとき意地悪そうに笑った戸崎くんは、なんだか幼く見えた。 「だから、ここで将真の原稿を読んでるんだ。教室だと騒がしいからね」 「じゃあ、中学校のときから図書室に入り浸ってるっていうのは……」 「まあ、それだけじゃないんだけどね」 戸崎くんは、封筒をテーブルの上に置いて、私の方へ寄せてきた。 「これ、将真の原稿に父が添削を入れたもの。瀬戸さんが将真に渡してよ」 「なんで私が?」 眉をひそめてたずねると、戸崎くんは一瞬だけ考えるようなしぐさを見せてから、 「瀬戸さんがきっかけだからだよ」 と、意味ありげに微笑んだ。
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