言葉を取られた王様とお妃様

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どういうことなのか聞こうとする前に、戸崎くんが口を開く。 「将真、おばあちゃんの体調が戻ったみたいで午後から学校に来るって。さっき連絡が入ったから、そろそろ来るんじゃないかな」 そう言って立ち上がろうとする戸崎くん。私はまだ納得がいかず、 「ねえ、さっきのどういう意味? きっかけって」 と詰め寄った。彼は目を細めるだけで、それには答えない。 「たとえばばらばらだったピースが揃うときって、すごくおもしろいし気持ちがいいでしょ? これを受け取った将真の反応も楽しみだなあ。今度教えてね、瀬戸さん」 今日の戸崎くんは、今までで一番饒舌でいきいきと輝いている。誰かに似ていると思ったけれど、沙和だ。戸崎くんは、彼女と同じ部類なんだ。 なんだかおもちゃにされているようでおもしろくない。何か仕返ししてやりたい気分になる。 「そういえば、戸崎くんって好きな人がいるんでしょ?」 これを言えばきっと慌てるだろうと思った。なんで知ってるんだ、と。だけど戸崎くんは表情ひとつ変えずに「いるよ」とこともなげに言った。 「どんな人? 同い年? いつから好きなの?」 「かわいい子。同学年。中学のときから」 悔しくて矢継ぎ早に質問したけれど、戸崎くんは涼しげな顔をしてさらりと答える。 その返答に、ふと、嶋野さんの顔が浮かんだ。彼女は戸崎くんと中学のときから一緒だし、何よりかわいい。
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