言葉を取られた王様とお妃様

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「……告白しないの?」 私がそう聞くと、戸崎くんはきょとんとした顔をした。厚い前髪の奥で、目に驚きの色を滲ませる。そして顎をさすり、ゆっくりとうなずいた。 「告白? 考えたことなかったな。……けど、そうだね、そうしようかな」 「え」 ちょうどそのとき、掃除の予鈴が鳴った。もっと聞きたかったけれど、戸崎くんも立ち上がったことだし、しかたなく封筒を脇にはさんで立ち、椅子を中に入れる。 戸崎くんのあとに続くと、急に彼が貸し出しカウンターの前で立ち止まった。どうしたの、と聞く前に戸崎くんが口を開く。その先には、図書委員の女の子。 「君のことが好きなのですが、まずは僕と友達になってくれませんか?」 私は口をぽかんと開けたまま閉じられなくなった。カウンター内の図書委員の女の子も同じだ。彼女は、私が大声を上げたときに、優しく注意してくれた子だった。たしかに緑の学年バッジをつけているから、同学年だ。 「そうか。こうやって声をかけて、恋人にでも友達にでもなってもらえばよかったんだ。そうしたら、図書室以外でも会えるし、話もできる」 渡り廊下を並んで歩きながら、彼女にOKをもらった戸崎くんはそんなことを言った。 あの子とは中学が同じで、本が好きなのか中学の頃から図書委員だったらしい。嶋野さんが、戸崎くんは中学のときから図書室に入り浸っていたと言っていたけれど、ようやく合点がいく。 「瀬戸さん。ありがと」 「……どういたしまして」 お礼を言われるようなことをした覚えはないけれど、とりあえずそう返した。それにしても戸崎くんは変わっている。周りのことは手に取るようにわかっているような雰囲気を出しておいて、自分のことはまるで見えていない。 でも、みんなそうなのかもしれない。それは私も例外ではないんだ。  
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