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おまじないは効かなかったけれど、あの絵本には、やっぱり魔法がかかっていたのかもしれない。私も将ちゃんも、ずっとあの一冊にとらわれていたのだ。
大きな風が吹いて、まるであの雑木林のように木々が一斉に音を響かせた。
私と将ちゃんの髪が舞う。そして、魔法が解けたかのように、ゆっくりと、本当にゆっくりと髪が元の位置に戻った。あの秘密基地に帰ってきたような、そんな感覚になる。
歪んだ記憶のフィルターが外れ、将ちゃんの気持ちを勝手に決めつけてきた私の心が、きれいに洗われたような気がした。今、まっさらな気持ちで将ちゃんを見ると、私の大好きだった男の子がそのまま高校生になった姿がそこにある。
やっと、今の将ちゃんの本当の表情を目に映した気がした。
「なんで……あの話を投稿したの?」
「なんでだろうな。あの絵本のことは、ずっと俺の頭の中に残ってたんだ。でも手元にはなくて……。だから、一度ちゃんと形にしたかったのかもしれない。結子に聞かせたいとか思って投稿したわけじゃない」
「うん。でも、なんだろう……嬉しかった。魔法が解けたみたいで」
「魔法?」
ふ、と将ちゃんが笑う。
「誰が悪い魔法使いだったんだろうな」
それはきっと私の弱い心だ。あのとき自分の存在を否定したことを、記憶の隅にずっと閉じ込めていた。そしてそれを将ちゃんのせいだと思うことで、自分を守っていたんだ。
……あの最後の一ページを、ずっと持っていてくれた将ちゃん。自分の弱さを認めてしまうことになるから、私は魔法が解けるのが嫌だったのだろう。だから私は、彼に近づくのが怖かったのかもしれない。
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