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「将ちゃんは、作家になりたいの?」
「…………」
私のひとことに、将ちゃんは黙った。そして、馬鹿にしたような目を寄こす。
「結子はやっぱり、記憶力が悪いな」
「え、何か話した? ていうか、そんな昔のことなら、ほとんどの人が忘れてる。将ちゃんの記憶力がよすぎるんだよ」
「はいはい」
将ちゃんはあきれながらそう言って、大きく手を上げて伸びをした。昔みたいに『結子』、『将ちゃん』と呼び合えたことが、ほんの少しこそばゆい。
「読む?」
急にそんなことを言われて、私は将ちゃんを見ながら首を傾げた。すると、将ちゃんは私との間に置いていた封筒を指差す。
「数日中に直してちゃんとした作品にしてくるから、投稿する前に……」
「読む!」
思わず前のめりになって返事をしていた。将ちゃんのつくった話を読めることが純粋に嬉しくて、私は鼻息を荒くする。
将ちゃんはそんな私を見て大きく笑った。
途端に、さっきから吹いていたはずの風の音がひときわ鮮明に響きはじめる。それが髪を撫で、頬を撫で、心を撫でて、全身が粟立ったような心地がした。嬉しくて、照れくさくて、どんな顔をすればいいのかわからなくなる。
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