5246人が本棚に入れています
本棚に追加
「本当にいいの?」
「あぁ、約束な。でも、その前に」
将ちゃんがゆるく結んだ拳を、コツンと頭にあてた。
「いい加減、戸崎宗敏の短編集を読み終えて持ってこい」
そう言って、口の端をわずかに上げた将ちゃん。そんなふうに笑うから、また私はなんともいえない感覚になって、「わかったから」と顔を背けて少しそっけなく返してしまう。普通の接し方が思い出せない。
「ところで、今日渡り廊下でふたりを見たけど、まだ図書室通ってんの?」
「え?」
ふたり、というのは私と戸崎くんのことだろう。見られていたとは気づかなかった。
「最近行ってなかったけど、今日は戸崎くんと話があったから」
「このことについて話してたの?」
将ちゃんが手元の原稿を軽く上げる。
「うん……まぁ、それだけじゃなかったけど」
言いかけて、ちょっと考えた。戸崎くんの好きな人があの図書委員の女の子だということを、将ちゃんは知っているのだろうか。知っていたとしても、勝手に戸崎くんが告白したことをしゃべってもいいのだろうか。
「けど、何?」
「……なんでもない」
「あっそ」
将ちゃんは、おもしろくなさそうにそう言い、「そろそろバイト行くから」と立ち上がる。
最初のコメントを投稿しよう!