言葉を取られた王様とお妃様

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「本当にいいの?」 「あぁ、約束な。でも、その前に」 将ちゃんがゆるく結んだ拳を、コツンと頭にあてた。 「いい加減、戸崎宗敏の短編集を読み終えて持ってこい」 そう言って、口の端をわずかに上げた将ちゃん。そんなふうに笑うから、また私はなんともいえない感覚になって、「わかったから」と顔を背けて少しそっけなく返してしまう。普通の接し方が思い出せない。 「ところで、今日渡り廊下でふたりを見たけど、まだ図書室通ってんの?」 「え?」 ふたり、というのは私と戸崎くんのことだろう。見られていたとは気づかなかった。 「最近行ってなかったけど、今日は戸崎くんと話があったから」 「このことについて話してたの?」 将ちゃんが手元の原稿を軽く上げる。 「うん……まぁ、それだけじゃなかったけど」 言いかけて、ちょっと考えた。戸崎くんの好きな人があの図書委員の女の子だということを、将ちゃんは知っているのだろうか。知っていたとしても、勝手に戸崎くんが告白したことをしゃべってもいいのだろうか。 「けど、何?」 「……なんでもない」 「あっそ」 将ちゃんは、おもしろくなさそうにそう言い、「そろそろバイト行くから」と立ち上がる。
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