言葉を取られた王様とお妃様

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お母さんが日勤のときの帰宅時間は、だいたい私と同じだ。だから、私がケーキ店から家に帰ると、すでにお母さんが帰ってきていた。 「あら、おかえり」 「ただいま」 私が持っている小さな白い箱を見て、エプロンを結んでいたお母さんの動きが止まる。 「それ、どうしたの?」 「ケーキ買ってきた」 「なんで?」 「お母さんに。たまには」 そう言って冷蔵庫に箱を入れた私は、手を洗いに洗面所へ行った。鏡に映った自分の顔は、この前倒れたときのように青白くはない。ただ、手の感覚がちょっとだけ違っていた。ほんの少し、震えていたからだ。 「ねぇ、結子。今日は何かのお祝いの日だったかしら?」 キッチンに戻ると、お母さんが眉をひそめて聞いてくる。 「違うけど……ちょっと思い立って」 冷蔵庫から麦茶を出してテーブルにつく。お母さんもその向かいに座ったけれど、やはり首を傾げていた。 「……ケーキ屋さんに行ってきたってこと? もしかして、あそこのシエルなんとかってお店?」 「うん、ちゃんと直接この前のお礼言ってきた」 「そうなの」 そこで少しだけお母さんの顔がゆるんだけれど、まだ納得のいっていない表情で私をうかがうように見ている。
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