言葉を取られた王様とお妃様

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「大丈夫なの?」 しばらく沈黙が続いたあと、お母さんが口を開いた。どこか重々しい口調で話しているけれど、私はなるべく軽く返す。 「何が?」 「……ケーキ。結子、苦手なんじゃない?」 そう言われて、私は一瞬押し黙った。言おうと決めたことなのに、これを言ってしまったらお母さんを悲しませるのではないかと、気持ちでくじけそうになる。 「お母さん、どうして私がケーキを苦手だと思うの?」 出した声は少しかすれていた。お母さんの目は少し揺らいでいたけれど、私にまっすぐ視線を合わせている。 「結子は節約のためって言ってたけど、親戚が持ってきたケーキにも手をつけなかったし……」 お母さんは無理して笑おうとしているように見えた。けれど唇が少し震えている。 「理由もなんとなくわかるの。でも、結子が忘れてるのか、それとも、思い出したくなくて口にしないだけなのか、わからなかったから……」 お母さんの声がだんだん小さくなっていく。いつも明るく振る舞っているのに、今はお母さんの姿がやけに弱々しく私の目に映った。 「今さら掘り起こすことでもないかなって……」 お母さんは、私と同じことを考えていたようだった。思い出したくないものは無理に話す必要はない。私もお母さんに、あの頃のことは思い出させたくなかった。 「本当に忘れてたの。ううん、思い出したくないから無理やり忘れていただけなのかもしれない。でもね、あの、結婚記念日の……」 そこまで言うと、お母さんの肩がびくりと跳ねた。
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