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あの日、秘密基地でのことは思い出したけれど、そこからのことはおぼろげだった。お母さんが迎えに来てくれていたのか。私は本当に大事なことを全部忘れていたんだ。
「未熟なお父さんとお母さんだったこと、ひとり親にしてしまったこと、引っ越しでお友達とも離ればなれになってしまったこと、数えればきりがないくらい申し訳ない気持ちでいっぱいで」
お母さんは、自分の気持ちをひとつひとつ私に説明してくれた。私にとってお母さんは、お母さんという存在でしかないと思っていた。だけどそんなことはない。お母さんだって私と同じ人間で、弱い部分も持っている。
きっと、私にそう思わせないために、いつも気丈に振る舞っていたのだろう。けれど今、私と同じように過去から目を逸らして、無理に話題を避けていたお母さんの一面を知り、自分の気持ちを正直に言ってもいいのだと思えた。
「お母さん、私がいたから……不幸になったとか、思わなかった?」
その言葉に、お母さんは血の気が引いたような顔を見せた。私は、それでもかまわずに続ける。
「子どもさえ……私さえいなければ、お父さんと離婚せずにいられたのにとか、離婚したあとも苦労しなかったのにとか……思わなかった?」
私はずっとこれを聞きたかったんだ。お父さんの口から出たあの言葉を、記憶に蓋をして閉じ込めながらも、ずっと、いまだに引きずり続けていたのだ。
離婚してから、ずっと仕事ばかりしてきたお母さん。高校に入ったらお金がかかるからと夜勤まではじめて、慣れない生活リズムに疲れがたまっているのは明らかだった。そして、それをごまかすように明るく生活するお母さんに、いつしか自分のほうが引け目を感じていた。
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