言葉を取られた王様とお妃様

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何かが引っかかっているけれど、気づかないようにブレーキをかけている日々が、私の行き場のない苛立ちになって、お母さんにも冷たくあたっていたように思う。今だから、それがわかる。 「……思うわけ……ないじゃない」 お母さんの目に、再度涙が伝った。けれど、さっきとは違う。手や唇が震えて、目には力が入っている。……怒っているのだ、お母さんは。 「いなければよかったなんて、一度も思ったことはないわ」 お母さんはいつも穏やかで、怒られたことなんて今までなかった。顔を強張らせて鋭い視線を向けるその表情に気圧され、私は何も言えなくなる。 「結子がいたから幸せでいられたのよ。二度とそんなことを言わないで!」 ダンッと、テーブルに両手を叩きつけたお母さん。次の瞬間、私の顔は幼い子どもみたいにくしゃくしゃになった。涙がいっせいに溢れ出る。 「ごめんなさい……」 そうつぶやくと、お母さんが私を抱きしめてくれた。久しぶりのお母さんの体温と私を包む力強さに、涙がいっそう止まらなくなる。まるで、あの日の私が解放されたかのように、心がすっと軽くなっていく。 今さら何も話すことなんてないと、放っておかずにいてよかった。私は涙と一緒に心にずっと押し込めていた感情を流しながら、そう思った。 夕食後には、二個買ってきていたショートケーキをふたりで食べた。幼い頃大好きだった味。スポンジと生クリームが優しい甘さで、イチゴがほんのり酸っぱい。それは懐かしくて、当たり前のようにおいしい、そのままの味だった。  
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