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秘密基地と約束
「それでさ、今までモブだと思ってた男が、最後の最後でヒロインかっさらっていって」
「はぁ」
「まぁー破壊力えげつなかったのよ。私もオチたわ、あれは反則」
「へぇ」
沙和が昨日見たアニメについて熱弁している。朝の賑やかな昇降口。靴を上履きに替えながら、私はいつものようにうなずいていた。
「なんていうアニメなの? それ」
階段を上りながら聞くと、沙和が「えっ?」と驚いた顔をする。
「結子が、私の趣味話に耳を傾けて質問までするなんて……おかしいわ。どうした? 何か変なものでも食べた?」
「ケーキ」
そう言って靴を下駄箱に入れ、階段へ向かう。
「それだわ!」
沙和が人差し指を私に向けたあと、「……ケーキ食べたの?」ときょとんとした顔をして、私は小さく噴き出した。
「おはよう」
笑いを含んだその声に振り返ると、嶋野さんだった。そのうしろから、気怠そうに階段に足をかける将ちゃんと戸崎くんも。ふたりとも大きなあくびをしていた。
「おはよう、モエモエ。ふたりの王子に守られて、まるで姫みたいね、うらやましい」
沙和がいつもの調子でそう言うと、嶋野さんは私たちに追いつくように足を速めた。
「違うよー。もうひとりで登下校できるから、って親にも将真くんたちにも伝えたの。だから、最近はひとりのほうが多いんだよ。今日はたまたま一緒の時間になっただけ」
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