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掃除開始のチャイムと同時に国語科準備室に着くと、ちょうど川北くんが入口から顔を覗かせたところだった。
「わ」
そう言ってのけぞると、川北くんが、
「今日はケーキの匂いしないから」
と細い目を向けてくる。
嫌味だろうか。ただ、たしかにあの甘い匂いはしなかった。もしかしたら、匂いがしないかどうかチェックをしてくれたのかもしれない。
「ここのほこり、気になってたんだよな」
いつものように廊下の掃除に行くのかと思いきや、川北くんはそう言って、部屋の拭き掃除をはじめた。たしかに本棚の高いところは私じゃ届かなかったから、背の高い人にしてもらえると助かる。けれど、松下先生は不在だから、気まずくてしかたない。
廊下の掃除をしようかと考えていると、川北くんが口を開いた。
「瀬戸さ、なんか誤解してない?」
誤解? 急に何を言い出すんだろう。
「誤解ってなんですか? それに、しばらくほっといてくれたのに、どうしてまた話しかけてくるんですか」
「……関わりたくないって言われて腹がたってたけど、誤解は解いておこうと思って。それに、教室では話しにくいだろ? ここだったら、いろいろとゆっくり話せるし」
川北くんは、手際よく棚を拭きながら話しかけてくる。
「そもそも誤解も何もないと思いますけど」
「お前さ」
わざとらしく大きなため息をついた川北くんは、手に持っていた雑巾を握りしめ、本棚から私の方へ視線を移す。
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