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「動けるか? とりあえず保健室行くぞ」
川北くんが私の脇に腕を入れ、支えながら起こそうとする。
「大丈夫だから……」
私はすぐそばにある川北くんの胸を突っぱねた。昨日ケーキの匂いがしたときと同じで、気分がどんどん悪くなっていく。
「離れて」
「おい、この期に及んで」
「お願い、離して。自分で行ける」
切羽詰まった声でそう言うと、川北くんはためらいがちに手を離した。昨日もこん なふうに私が拒んで、川北くんが離れていったんだ。ただ関わりたくないだけなのに、どうしてこうなってしまうんだろう。
「……あのさ、そこまで俺を拒む理由って何? 絵本のことだけで、そこまでなる?」
"絵本のことだけ"。その言葉が、耳鳴りみたいに響く。
「今だけ忘れて、いいかげん保健室に連れていかせろよ。俺のせいなんだから」
「…………」
背中の痛みよりも、胸の奥の痛みが勝る。自分でもどうしてここまで拒否反応が出てしまうのかわからないけれど、とにかく自分の中の警笛が鳴りやまないのだ。覚えていない昔の記憶がそうさせるのだろうか。
「本当に……自分で行けるから……」
質問には答えずに弱々しい声でそう言うと、同じ目線でしゃがんでいた川北くんが押し黙った。
「人のことかばっておいて、なんだよ、それ……」
そして、ぽつりとつぶやくようにそう言った。
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