押入れの中の絵本

6/28

5247人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
「萌香、ごめん。今日は一緒に帰れなくなったから」 その日の帰りのホームルームのあと、川北くんが嶋野さんにそんなことを言っているのが聞こえた。目の前の席だから、嫌でも耳に入ってしまう。 「うん、わかった。急にバイト入ったの? あ、もしかして部活の仮入部とか? どっか見に行くの?」 「違う。瀬戸の家に行く」 帰り支度をしていた私は、その言葉を聞いて、「は?」と声に出してしまった。こちらを振り返った嶋野さんが、なんで? と言うようなきょとんとした顔をして、また川北くんを見る。 「あ……そっか、幼なじみだったし、不思議じゃないか」 「いや、ケガさせたから、瀬戸のお母さんに謝りに行く」 川北くんは私に何も言わず、どんどん話を進めていく。それを聞いて嶋野さんが「え? 大丈夫? 瀬戸さん」と驚きながら私に聞いてきた。 あのあと、私はひとりで保健室に向かい、先生に診てもらっていた。何度も大丈夫だと言ったのに、絶対保健室に行けと川北くんに言われたのだ。 結果、背中は赤くなっていただけで、あざにはなるだろうけれど数日で痛みと一緒に引くでしょ、と言われた。湿布をしてもらって保健室を出ると、あとからついてきていた川北くんがいて、私たちは距離を置いて教室へと戻った。保健室での会話もきっと、聞いていたはずだ。それなのに……。
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5247人が本棚に入れています
本棚に追加