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「だから、大丈夫だって。それに、何度も言うように」
「はいはい。関わりたくない、でしょ? だけど謝りに行くくらいはいいだろ」
川北くんはまったく引く気がないらしい。
「ていうか、本当に……」
「結子ー、帰ろう……って、なになに? なんか楽しそうな話?」
言いかけたところで沙和がのんきな声を出して寄ってきたから、私はその腕をさっとつかむ。
「とにかく、本当にいいから。それじゃ」
そう言い捨てて、教室をあとにした。
それが、なんでこんなことになっているのだろう。
バスの出発間際に駆け込むように乗ってきた川北くんは、乗車生徒たちにじろじろと見られる中、一番うしろの広いシートに座った。私と沙和がいるのは、そのひとつ前のシートだ。
私は頭をかかえた。なんで私は、川北くんを助けようと動いてしまったのだろう。馬鹿なことをした。
「あれ? あれあれ? 川北くんじゃないですか。なんでまた」
浮かれて振り向きながら話しかける沙和に、川北くんはさっきと同じ説明を返す。
「へえ、それはそれは」
「鎌田、危ないから、いいかげん前向けば?」
そう言われてやっと姿勢を戻した沙和。一切会話に参加しなかった私を見て、
「紳士じゃん。幼なじみ紳士」
と腕を小突いてきた。沙和のこういう性格に慣れてきたとはいえ、勘弁してほしい。
「で、大丈夫なの? 打ったところどのへん?」
「このへん。湿布してる」
「ここ? あぁ、ちょうどブラのホックのとこね」
さすりながらあけすけにそう言ってくる沙和に、怒るよりあきれてしまう。
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