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ようやく最寄りのバス停に着いた。沙和はもうひとつ先のバス停だから、いつも私が先に降りる。
バスの中では私と一切しゃべらなかった川北くんも、私のあとをついてきた。うしろは振り返らなかったけれど、沙和がどうせにやにやしているんだろうと思うとため息が出る。
すぐに家へと足を向けた私は、いつもより早足で家路を急いだ。お母さんが帰ってくる前に、家に着きたかったからだ。
「ここ、バイト先の近くだ。あの角を曲がってまっすぐ五分くらい歩けば着く」
「……へぇ」
そっけなくそう返した声は、離れているから聞こえなかったかもしれない。
まさか本当についてくるなんて思っていなかった。ほんの少しだけ顔を傾けて川北くんを盗み見ると、二メートルくらい間をあけ、周囲の住宅をきょろきょろしながら歩いている。
「隼人と知り合いなの? さっき、鎌田と話してるのが聞こえたけど」
やっぱり聞かれていた。私は聞こえないふりをしてどんどん歩く。
「図書室にわざわざ会いに行ったんだって?」
「違う。図書室に行ったら、たまたまいたの」
馬鹿にされているようにたずねられて、思わず言い返してしまう。すると、立ち止まった川北くんが一瞬ぽかんとした顔をして、「ふっ」と噴き出した。
「敬語じゃなくなってる」
無意識で言っていたから、指摘されて悔しくなる。私は顔をぱっと前に戻し、さっきよりも早足になった。
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