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「ねぇ、何か話したの? 隼人と」
「話してない。それよりなんで戸崎くんは私のこと知ってるの? 川北くんが話したんでしょ? どんなふうに話したわけ?」
ここでまた敬語を使っても、川北くんには馬鹿にされそうだ。そう思って、敬語で距離を取ろうとしていたのを不本意ながらもやめる。
「何? あいつのこと気になってるの?」
速く歩いているはずなのに、いつの間にか川北くんは私のすぐ近くまで来ていた。
「そんなんじゃない。ただ、自分の知らないところで自分のことを話されてたのが嫌なだけ」
「ていうか、あいつ……何べらべらしゃべってんだ? もしかして、何かほかに余計 なこと言われた?」
互いに質問を質問で返すから、話が何ひとつ進まなくてイライラする。
「べらべらしゃべってるのは川北くんじゃん」
立ち止まって勢いよく振り返ると、その衝撃で背中に痛みが走った。
「っつ……」
思わずその場にうずくまる。頭上で川北くんがあきれた声を出した。
「ひとりコントでもしてんのか?」
「違うっ!」
「あーあー、わかったからもう騒ぐなって」
そう言って私の背中をさすろうとするから、驚いてさっと避ける。今度はケーキの匂いがしたからではない。さっき、沙和がブラのホックがどうのと言っていたのを思い出したからだ。
勝手に顔が熱くなっていく。わかっている、こんなのはただの自意識過剰だ。
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