押入れの中の絵本

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「近よらないでって言ったじゃん!」 ほとんど八つ当たりのように怒鳴ると、川北くんは「はいはい」と言って、あきれた顔で手を戻した。 川北くんと話していると、いつもこうだ。むきになって、小さな子どもみたいに癇癪を起こし、ちょっとしたことで動揺する。 「あら? 結子? おかえり」 家の前まで来たときだった。声をかけられてぎくりとすると、横断歩道を渡ってきたお母さんが目に入る。 「なんでそんなに驚いた顔してるのよ。ちょうど同じ方向に帰る人がいたから、車でそこまで送ってもらって早く着いたの。……こんにちは。そちらはお友達?」 どうして今日に限ってそんなイレギュラーなことが起きるのだろうか。眉間を押さえると、川北くんが私の横に並んだ。 「同じクラスの川北将真です。今日、俺をかばって瀬戸さんが傷を負ってしまったので、お詫びしに来ました」 そう言って、川北くんは「すみませんでした」と深々と頭を下げる。そしてそのまま状況の説明をはじめた。ふたりが並んでいる姿はなんとなく現実味がなくて、私はただ黙ってそれを聞いていた。 「そうだったの。わざわざありがとう。しっかりしてるのねぇ。……それはそうと、 川北将真くんて……」 お母さんが、首を傾げて川北くんを凝視する。思い出さないでほしいと思っていたのに、 「以前隣の県にいたとき、小一まで結子さんと一緒に遊んでいました」 すかさず川北くんがそう言うから、お母さんはぱっと顔を輝かせた。
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