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『また魔法使い出てくるの? 結子、魔法使い好きだな』
『うん、でもね、この魔法使いは、すごーく悪いやつなの。言葉を奪う魔法を使うんだよ』
『へぇ、おもしろそうじゃん』
いつもの秘密基地。頬を撫でる夕方の秋風が心地よくなってくると、日が落ちる時間も次第に早まる。私たちは毎日三十分だけ絵本をつくることにしていた。ノートに十五分私が絵を描いて、残りの十五分で将ちゃんが文章を書いていく。
『"まほうつかいは、ことばをうば……"』
『あ! そこ、色塗り忘れてた。待って、今塗るから』
『また? 進まないなぁ、もう』
草むらに落ちた数本のクレヨンの中からレモン色を取った私は、将ちゃんに向けていたノートをこちらに引っ張り、杖から出る光を懸命に塗り足す。
今回は特別な絵本だから、手を抜きたくなかった。一番お気に入りだった水色のノートを下ろし、毎日おまじないまでかけていたんだ。
『"願いが叶いますように""願いが叶いますように""願いが叶いますように"』
色を塗り終えた私は、両手を組んで額につけ、呪文のように繰り返す。
『その願いって具体的に言わなくていいの? ほら、流れ星のときみたいに』
『願いは人に聞かれたら叶わないって、おまじないの本に書いてあったの。あと、毎日三回こうやって唱えないといけないんだよ。手をこうしておでこにつけて、目を閉じて……』
『見てたらわかるって』
将ちゃんがあきれた顔で、でも一緒になって同じポーズを取ってくれる。
『それに、言わなくても結子の願いはわかるけど』
将ちゃんはそう言って目を閉じ、
『"結子の願いが叶いますように"』
と唱えはじめた。
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