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将ちゃんが三回願いを唱えている間、私はじっとその顔を見ていた。伏せられたまつ毛がきれいで、あらためて将ちゃんは王子様みたいだ、と思う。
『ちょっと! "結子の"ってつけたらだめだよ。おまじないの言葉どおりにしなきゃ』
急に恥ずかしくなってそう言うと、将ちゃんは『めんどくせー』と鼻を鳴らした。
『あ、そうだ。今度男子たちで、放課後この公園でサッカーしようって話になったんだけど』
『いつ?』
『今度の金曜日』
『えー、急がなきゃ完成しないのに』
口を尖らせると、将ちゃんが私の頬を軽くつねる。
『それは結子の絵が進んでないからだろ? 俺は字を書くだけだからすぐだし、必ず完成させるから、俺が来れないときは絵を進めといてよ』
『だってこの公園でサッカーするんでしょ? 秘密基地は内緒だから、私、来れないじゃん』
『家でやればいいだろ』
『だって、驚かせたいから絵描いてるところ見られたくないんだもん』
それもたしかな理由のひとつだった。けれど、私はきっと悔しかったのだ。私と絵本をつくるよりも、男子たちとのサッカーを優先する将ちゃんに、やきもちをやいていた。
学校では、男子と女子とで分かれて遊んでいたから、一緒にいると浮いてしまう。この秘密基地にいるときだけが、誰にもからかわれずに将ちゃんといられる特別な時間なのに……。
『わかったわかった。じゃあ、今度の土曜日、うちでつくる?』
『将ちゃんち? 行く! やったー』
しかたないなぁ、という顔をした将ちゃんの手を握って、ぶんぶんと上下に振る。秘密基地の外で、落ち葉がカラカラ音を立てて転がっていく音がした。遠くで、小さな子どもの笑い声。
将ちゃんといるときはいつも、のどかで平和で、優しい時間が流れていた。
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