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たしかにこんなにかわいい女の子だったら、親も心配するだろう。近くに同級生の男の子がいたら、頼んでもおかしくはない。
「将真くんは優しいからずっと付き添ってくれてね、今でも可能な限り一緒に登下校してくれてるの。それで、悪いなって気持ちと感謝の気持ちでいっぱいなんだけど、最近ちょっと……横を歩いてるのが嬉しいっていうか、なんていうか……」
嶋野さんの頬の桃色が濃くなっていくのがわかる。
"なんていうか"……って、ひとつしかないじゃん、と思った。沙和が横で聞いてい たら、よだれを垂らして催促するような話だ。それに、沙和じゃなくても言ってしまいそうだ。そのシチュエーション、両思いのフラグが立ってるよ、って。
「えっと……私のことは置いておいて、瀬戸さんはどう? 入学してから、いいなっ て人できた?」
誰にでもこんな感じなのだろうな。嶋野さんは無垢な目でたずねてくる。こういう話、女子ならみんな好きなのだと信じて疑っていなさそうだ。
「べつに、いないけど」
私のそっけない返事に、嶋野さんは「そっか……」と耳を垂らした犬みたいにうなだれた。好きな人がいないのはべつに悪いことじゃないはずなのに、なんとなく申し訳ない気持ちになってしまう。
「でも、そういう人ができたらいいなとは思う」
思わずそう口走ると、嶋野さんは途端に顔を明るくさせた。
「そうだよね、できたらいいね」
うんうん、と嶋野さんがうなずくと、チャイムが鳴った。会話が終わってほっとしている私は、やっぱり彼女とは合わないのかもしれない。
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