押入れの中の絵本

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今日もまた昼休みに図書室に行ったのは、昨日の本の続きを読もうと思ったからだった。途中でチャイムが鳴ったから中途半端になっていて、結末が気になっていたのだ。 けれど読書スペースをちらりと一瞥する自分がいて、少し恥ずかしくなる。戸崎くんは、今日はいないようだった。一回だけ小さくため息をついて、私は本棚へ向かった。 「どーも」 本の背表紙を指でなぞっているときだった。いないと思っていた戸崎くんから声を かけられる。私の背後を通って読書テーブルについた彼は、やはり封筒を持っていて、そこから用紙の束を取り出した。 「あ……」 挨拶を返し損ねた私は、どうしようかと思ったけれど、ちょうど指を止めたところにあった昨日の本を抜いて、テーブルをはさんで戸崎くんの斜め前に立つ。 「どうも」 そう言うと、戸崎くんはまたふわりと微笑む。彼のまわりだけ時間がゆっくり動いているような、落ち着いた雰囲気があった。そして、昨日よりも彼に近い場所に腰を下ろしてしまったことで、自覚する。戸崎くんに声をかけられて少し嬉しく思っていることと、自分が彼に対して少し興味を持っていることを。 本を開きながら、斜め前に座る戸崎くんをこっそりと見た。大きめのクリップに留められた用紙の束を、頬杖をつきながら眺めるようにめくって読んでいる。 「あのさ、それって……」 思わず声が出てしまっていた。普段ならこんなふうに人に話しかけることはしないのに、興味のほうが勝ってしまったのだ。戸崎くんはゆっくりと顔を上げる。
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