5248人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
「もしかして……原稿とか?」
原稿、なんて言葉を使ったらなんだか軽薄な気がして、すぐにバツが悪くなった。
けれども彼は、親が作家だって知ってるの? とか、ミーハーだね、とかは一切言わなかった。代わりに穏やかに微笑んでいる。それで私は少し調子づいて、
「戸崎くんが書いたの?」
と聞いてしまった。
戸崎くんは紙の束へまた目を落とし、ペラペラと指でめくる。何かを考えているようだ。
「見る?」
肯定でも否定でもない、けれどどこか楽しそうに言う彼の言葉に、私は即座にうなずいた。
「うん。見たい」
戸崎くんが書いたものかと思ったけれど、もしかしたらこれ、戸崎宗敏のものかもしれない。そう思ったら興奮してしまい、それを表情に出さないように受け取った。
いや、実際に戸崎くんの書いたものだとしても、人が書いた文章を読むというのは、わくわくする。そう、あの秘密基地で将ちゃんの書いた文章を読んだときと同じように……。
思い出したところで思考を中断する。川北くんに会ってから、こんなふうに隙をついて記憶がよみがえってしまう。今、あの頃のことを思い出す必要なんてないのに。
「じゃ……読ませてもらうね」
戸崎くんに会釈をしてそう言った私は、その文章を読みはじめた。手書きだったらかっこいいな、と思ったけれど、用紙にあったのはパソコンで打たれた機械的な文字だった。だけどそれが逆に私の頭にするすると入っていく。いや違う、内容がおもしろいから、どんどん話に引き込まれていく感覚だ。
それは、SFのような非日常を描いた短編小説だった。
ある日、小学生の主人公が、自宅の庭にある大きな樹の裏で穴を見つける。その穴 には箱が入っていた。それを開けると、動かないラジコンが入っていて、次の日は、また違うものが入っていた。毎日違うものが穴の中から出てきて、それが一週間続く。
最初のコメントを投稿しよう!