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「どう? 背中」
「普通」
敬語は取ったものの、ぶっきらぼうな態度はそのままだ。そんな私を見て、川北くんはあきれた目を向けてくる。
「普通ってなんだよ。ケガしてんのに」
掃除をしながらそんな会話をしていると、松下先生が声を上げた。
「瀬戸さん、ケガをしたの? 大丈夫かい?」
昨日、松下先生は不在だったから、知らないのだ。川北くんがおおまかな説明をすると、「一大事じゃないか」と目を丸くする。
「そうだ、これを機に、上の段にまぎれ込んでいた重い本は一番下に移そう。今日から本棚整理をお願いしようかな。すまないね、私が無頓着だったばかりに」
たしかに並んでいる本は雑然としていたから、気にはなっていた。
「しかし、勇敢だね、瀬戸さんは。男の子をかばうなんて」
「いえ。今思えば無謀なことをしました」
松下先生と話しながら本棚の本を出していると、
「本当に」
と横から同じく本出しをしている川北くんが割り込んでくる。
「ハハ。君たちは仲がいいんだね」
「そんなことはありません」
「俺に近寄りたくないらしいです」
淡々と返した私の言葉に、川北くんも同じようにつけ加えると、松下先生はまた「ハハハ」と笑った。
「君たち生徒を見ていると、自分の若い頃を思い出すよ。あの頃はなんでもできる気がしていたな」
部屋の窓を開けながら、松下先生が突然そんなことを言いだした。今日は天気がいい。狭い準備室に日差しがキラキラと入り込んでくる。
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