押入れの中の絵本

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「君たちは、将来の夢とかやってみたいことはあるのかい?」 窓の外の景色を眺めながら聞いてくる松下先生。ちらりと川北くんを見ると、先に答えろということだろうか、彼もこちらを見ていた。 「とくにないです」 そう言うと、川北くんはまだじとりと私を見ている。そんな小馬鹿にしたような顔をしないでほしい。 「俺はあります」 川北くんが、松下先生に視線を戻してそう答えた。それがとても真剣な声色だったから、私は少し驚く。一瞬、彼がまったく知らない人のように見えたのだ。 「おお、そうかい。夢がないといけないというわけでは決してないが、とにかくしたいことがあったら片っ端からがむしゃらにやるべきだ。全部無駄なく糧になるから、後回しにせずに情熱的に動きなさい」 松下先生が私たちを眩しそうに見ながら、はじめて教師らしいことを言った。けれど、私は川北くんの即答のほうが気になった。あまり見たことのないまっすぐな目で、はっきりと答えたからだ。
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