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「何? やりたいことって」
「教えない」
これを聞くのは少し勇気がいったのに、あっさりとそう返されて自分の発言を後悔する。松下先生が聞いてくれたらよかったのに。
「将真っちー、あ、いたいた」
しばらくすると、準備室を覗いてくる女子たちがいた。
「ああ、もう終わりの時間だね。ここはこのままにして、明日、また続きをしよう」
ちょうど掃除終了のチャイムが鳴る。本が無造作に積み上げられた長机を前に、松下先生がうなずいた。
廊下に出ると、この前と同じ先輩たちが川北くんを手招きしていた。
「その"将真っち"っていうの、なんですか」
「えー、かわいいじゃん」
先輩たちは川北くんの腕にベタベタとさわりながらはしゃいでいる。それを横目に、私はさっさと教室に向かって歩きだした。
「じゃあ、私は"将ちゃん"て呼ぼうかなー」
「いいかもいいかも。かわいー」
そんな会話が聞こえ、私は足を止めた。けれど振り返るのは癪だったから、そのまままた進みはじめる。
階段に足をかけたところで、
「その呼び方、やだ」
と、川北くんが言ったのが聞こえた。
なぜだか、彼が私の背中を見ているような気がした。
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