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『えー、今夜は、ガラス雲さんの"幸福電卓"です。この話、伏線が素晴らしくて……』
今日は水曜日。夜九時の自分の部屋、ラジオを聴く準備は万端だ。
「おもしろそう」
入学式前日のラスクさんの作品のあと、先週も先々週も、少し暗い話だった。今日は、明るい雰囲気のライトミステリー。録音のセットも忘れていない。
「結子? あら、聞こえてなかったのね」
話がはじまってすぐ、お母さんがドアを開け、部屋の中を覗き込んできた。
「急に開けないでよ」
私は耳につけていたイヤホンを取って、少しだけむっとする。
「何回もノックしたわよ。イヤホンしてるなんて知らなかったから」
「びっくりしたし」
「ごめんね」
お母さんはすぐに謝る。私はそれが嫌だ。なんとなく、機嫌を取られているような気がするからだ。お母さんが悪くなくても、場をおさめるために『ごめん』と言っているのではないかと思う。
「これ、結子にプレゼント」
ピンクの包装紙に包まれた箱を差し出すお母さん。私の顔をうかがうように、少しはにかんでいる。
「誕生日プレゼントはいらないって言ったじゃん。さっきタコライス食べたし、それで十分だよ」
「いいの。お母さんがあげたかったんだから」
お母さんはいつも節約節約と言っているから、お金を使わせてしまったことがうしろめたくて、素直に喜べない。
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