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「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
お母さんが部屋を出ていったあとで、イヤホンを耳に戻した。小説の朗読は終わっており、エンディングのピアノ曲が流れはじめている。
マーカーセットの一本を手に取る。鮮やかなスカイブルーを見ていると、無性に絵を描きたい気持ちになった。これで描くなら、ちゃんとしたスケッチブックがいい。たしか未使用のものがあったはずだと押入れを開けた。
「……この箱だったかな」
つぶやきながら奥の方に入れていたダンボールを取り出す。中にはノートやら教科書やらがぎちぎちに入っていた。ほこりっぽい匂いに咳き込みながら、スケッチブックを探していると、
「……え」
その中の一冊、水色のノートが目に入って私の手は止まる。表紙にはタイトルの書かれたピンクの色紙が貼られており、赤い折り紙でつくった花がふたつ飾りつけられていた。
「これ……」
ペラペラとめくると、拙くも鮮やかな絵が何ページも続いていて、その横に一、二行の文が添えられている。その字は私のものではなく、"将ちゃん"……川北くんの字だ。
「あのときの……絵本……」
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