押入れの中の絵本

26/28

5248人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
「どうしたの?」 「ううん、なんでもない」 お母さんが部屋を出ていったあとで、イヤホンを耳に戻した。小説の朗読は終わっており、エンディングのピアノ曲が流れはじめている。 マーカーセットの一本を手に取る。鮮やかなスカイブルーを見ていると、無性に絵を描きたい気持ちになった。これで描くなら、ちゃんとしたスケッチブックがいい。たしか未使用のものがあったはずだと押入れを開けた。 「……この箱だったかな」 つぶやきながら奥の方に入れていたダンボールを取り出す。中にはノートやら教科書やらがぎちぎちに入っていた。ほこりっぽい匂いに咳き込みながら、スケッチブックを探していると、 「……え」 その中の一冊、水色のノートが目に入って私の手は止まる。表紙にはタイトルの書かれたピンクの色紙が貼られており、赤い折り紙でつくった花がふたつ飾りつけられていた。 「これ……」 ペラペラとめくると、拙くも鮮やかな絵が何ページも続いていて、その横に一、二行の文が添えられている。その字は私のものではなく、"将ちゃん"……川北くんの字だ。 「あのときの……絵本……」
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5248人が本棚に入れています
本棚に追加