押入れの中の絵本

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そう、引っ越し前に川北くんと一緒につくった絵本だった。最後までめくると、不自然に破かれたあとがある。そのページは、ここにはない。 そうか……これ、結局お父さんにもお母さんにも渡せなくて、でも、捨てることもできなくて、こんなところに押し込んでたんだ……。 この本には"お父さんとお母さんが仲直りしますように"と毎日おまじないをかけていた。いつからだろうか。"これをプレゼントできていれば、お母さんたちは離婚しなかっただろうし、引っ越しもしなかったはずなのに"と、歯がゆさや後悔を抱くようになったのは。 引っ越してしばらくは心も環境の変化も慌ただしくて、ただただ放心していたような気がする。けれど、しばらく経ってからそう思うようになった私は、その感情の矛先を、絵本を破った将ちゃんに向けるようになっていた。 だからだろう、私は川北くんに対して嫌悪感をぬぐいきれない。将ちゃんが絵本を破らなければお父さんとお母さんは離婚しなかったんだ、といつからか私の中に刷り込まれていたからだ。 再会したことで無意識のうちにそんな気持ちがよみがえって、子どもの頃の私に戻ってしまっていたのかもしれない。だから、彼といると自分らしくいられないんだろう。
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