5248人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
拒否反応
翌日の昼休み、私は今日も図書室に向かった。中に入ると、いつもと同じ場所に戸崎くんがいる。その姿を見てなぜだかほっとした私は、また同じ本を棚から抜き、彼の斜め前に腰を下ろした。
「どうも」
「……どーも」
声をかけると、腕組みしてうつむいていた顔を上げ、うなずく戸崎くん。今日は原稿を持っていないようだった。目を何度も瞬かせているところを見ると、居眠りをしていたようだ。この前もうたたねしていたし、寝るために図書室に来ているのではないかとも思う。
「今日は……ないの? 原稿」
「ないよ」
そっけなく言われてしまい、ちょっとがっかりする。また彼の小説を読めるのではないかと、少しだけ期待していたのだ。あの、水曜日のラジオを楽しみにしているように。
「読みたかったの?」
「うん」
素直にそう返すと、彼はふんわり微笑んだ。その顔を見て、私の心がわずかに跳ねる。
「好きなんだね、小説が」
「うん。とくに短編小説が好き。構成がしっかりしてて、心に残る話が」
「へぇ。まぁ、たしかにね。そのほうが技量がいるかもしれない」
戸崎くんが楽しそうに目を細めたのが、前髪の下からでもわかった。それを見て、私はもっと話がしたいと思う。彼がどんなことを思って小説を書いているのか、普段どんな小説を読むのか。
「あの……戸崎くんってラジオとか聴く?」
「え?」
「水曜日の九時からね、一般が応募した短編小説の朗読があるんだけど、知らない?」
いつも表情をたいして変えない戸崎くんが、一瞬目を大きく開けた。
最初のコメントを投稿しよう!