拒否反応

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「もしかして知ってる? 聴いてるの?」 私は思わず前のめりになり、連続して質問する。 「驚いた」 彼はやっぱり肯定も否定もせずにただそう言った。だけど戸崎くんがやわらかく笑ったから、それが肯定の意味だと取れる。 はじめて同じラジオを聴いている人に出会って、胸が躍った。大げさかもしれないけれど、なんだか自分の理解者が現れたような気がしたのだ。私は手に持っている文庫本を、曲がるくらいに強く握る。 「私ね、そのラジオが大好きでっ」 「あの……ごめんなさい。図書室では少し声を落としてください」 そのとき、背後から肩を軽く叩かれて、はっとした。振り返ると、そこにはいつも貸し出しカウンターに座っている図書委員の女の子がいる。緑の学年バッジをつけているから、同じ一年生のようだ。 「あっ……すみません。気をつけます」 慌てて謝ると、図書委員の子は優しげに笑って去っていく。それを見ていた戸崎くんが、口元に手をあててくすくす笑った。恥ずかしくなりながら、「ごめん」と小声で戸崎くんにも謝ると、彼は急にまじめな顔をして私に向き直った。 「瀬戸さんは、自分で書いてラジオに投稿したりしないの? 書きたい話はないの?」 今日も戸崎くんはそんなことを聞いてきて、また私の心の奥が小さく反応する。だけど、昨日感じたものとは少し違う気がした。昨夜、ダンボールの中に絵本を見つけたからだろうか。絵を描くことはずっと好きだけど、あの頃のように絵本をつくる気にはやっぱりならない。 戸崎くんはまっすぐに私を見つめてくる。なんだかいろんなことを見透かすような目だったから、私は自分の気持ちを隠すように、 「ないかな」 と短く返した。 戸崎くんは私の返答に驚くことも不思議がることも、訝しむこともしなかった。ただ、「そう」とだけ口にして、それ以上は何も言わなかった。
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