拒否反応

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「とにかく、川北くんが言っているのとは違うから」 無理やり話を終わらせると、川北くんがやっと身体を本棚へと向けた。 「そういえば、昨日、結子の誕生日だったよな?」 一瞬、違和感を覚えなかった自分に驚く。それくらい自然に、川北くんが私の名前を呼んだからだ。 「結子って呼ばないで」 睨みながらそう言うと、「瀬戸の」と、川北くんは面倒そうな顔をして言い直した。 「なんで誕生日覚えてるの?」 「だから、誰かと違って記憶力がいいんだよ」 「私だって記憶力は悪くないけど」 「結子は記憶力悪いよ」 「ゆ……」 「瀬戸」 繰り返されるやりとりに、「敬語取れたんだから、いいだろ」とぶつぶつ言っている川北くん。高い位置にある本の束を「よっ」と勢いをつけてかかえ、長机に移す。 「まぁ、なんで思い出したかっていうと、今日が萌香の父親の誕生日だって聞いたからだけどね」 「嶋野さんの?」 「そう」 そこでチャイムが鳴り、掃除の時間が終わる。本は結局出しっぱなしになって終わった。 嶋野さんのお父さんの誕生日と、私の誕生日の何が関係あるんだか。下の名前で呼ばれたことや、誕生日を覚えられていたことに動揺したなんて気づかれたくなくて、私はただ「ふうん」と上滑りな相槌だけ打って、手のほこりを払った。  
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