5248人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
「萌香、今日のことだけど」
「あぁ、うん! よろしくね、取りに行くから」
放課後、また私の前で嶋野さんと川北くんが仲よさそうに話している。
「ちょっと遅くなってもいいなら、俺が届けるんだけど」
「いいよ、いいよ。将真くんの働いてるところ見たいから、お店まで行くよ」
「あんまり見られたくないんだけどな」
「ふふふ」
「それじゃ、お先に」
互いに手を振り合うふたり。川北くんが教室から出ていくのを見ていると、いつの間にか沙和が隣に立っていた。
「モエモエ、今の会話録音してたらちょうだい」
「わっ、沙和ちゃん。びっくりしたー。ていうか、なんで録音?」
振り返った彼女に、
「隣同士に住んでいるからこそ許される会話、寝る前にリピート再生したい……」
とぶつぶつ気持ち悪いことを言っている。
私は、「嶋野さん、無視していいよ」と言って沙和を肘で小突いた。
「ていうか、何を取りに行くの? 話からして、川北くんのバイト先?」
会話をしっかり頭に録音していたらしい沙和は、無遠慮に嶋野さんに質問する。
「うん、そうなの。将真くん、ケーキ屋さんでバイトしててね、今日私のお父さんの誕生日だから、ホールケーキを注文してたの」
「へぇ、じゃあ、それを取りに行くってこと?」
「うん」
そう話している嶋野さんは、なんだかとても嬉しそうだった。ケーキは幸せの象徴だと言わんばかりのその顔に、少し胸やけがしそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!