5249人が本棚に入れています
本棚に追加
「結子さ、もったいないわー。ツンツンしすぎ。たまにはデレを出していこうよ」
「なんでそんなことしないといけないのよ。時間の無駄だし、べつに彼に好かれたいわけじゃないから」
バスが小刻みに揺れる。工事をしている道路に入り、隣同士に座って話す私と沙和の肩が、ときおりぶつかった。
「新生活はじまったばかりよ? 出会い、大事よ? 第一印象、大事よ? イケメン、大事よ?」
「そういう、出会いとかイケメンとか興味ないって、沙和は知ってるでしょ?」
そこで段差に乗ったのか、バスがひときわ大きく跳ねる。私と沙和の頭が、同時にがくんと揺れた。
「それ、前から不思議だったけど、どうして? 花の女子高生よ? みんな恋愛に興味があるのが当たり前だと思うけど」
沙和が本当に理解できないという顔をつくる。その表情を見て、私は小さくため息をついた。
たしかに沙和ほどではないけれど、中学生の頃からクラスの女子は好きな人ができたとか、先輩がかっこいいとか、いつも色めきだっていた。だけど、私は恋愛なんて興味ない。人の気持ちは変わるから、誰かを好きになったって結局裏切られるんだ。
この道路だって、どこかに劣化やゆがみが生じているから工事をする。いつまでも、どこまでもきれいな道だとは限らない。人もそう。表面上はきれいに見せていても、裏があったり綻びがあったりするんだ。
「まあ、結子のそのクールな感じ、嫌いじゃないけどね」
沙和が、頭上で手を組んで大あくびをする。工事現場を抜け、バスは再び静かに走行しはじめた。
「にしても、川北将真って人」
「……うん?」
「本当に思い出せないの?」
私は、「うん」と窓の外を見ながら答えた。思い出せないのではなくて、思い出したくないのだ、とは言わなかった。
最初のコメントを投稿しよう!