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沙和と別れて、私と嶋野さんはバスを降りた。少しくもった空を見上げながら川北くんのバイト先に嶋野さんを案内する。
「お店からの帰りはどうするの?」
「ケーキを受け取ったら、うちのお母さんに迎えに来てもらう予定だよ。連絡するねって、朝約束してきたの」
「でも、スマホ忘れてきたんでしょ?」
そう聞くと、嶋野さんは、
「そうだった!」
とはっとしたように口を押さえる。
地図のことといいスマホのことといい、今日に限ってというより、もしかしたら天然なのかもしれない。
「私が貸すよ、スマホ」
できることなら早く帰りたかったけれど、さすがにこのまま嶋野さんを置いて帰ってしまうのは憚られた。嶋野さんは私の言葉に、「いろいろごめんね」と申し訳なさそうにしている。
この前川北くんが話していた道を思い出しながら、そのとおりに進んだ。近所だけれど、通学路でも大通りでもないため、あまり通らないこの道。歩きながら、少しずつ足が重たくなってくる。
「そのケーキ屋さんね、三カ月前にオープンしたらしくてね、将真くんの叔父さんが経営してるんだって」
「へぇ……」
「人手不足で将真くんも呼ばれるようになったみたい。週の半分くらい入って、帰りは叔父さんが送ってくれるんだって話してた」
「そうなんだ」
「瀬戸さんの家近いし、もしかしてもうお店行ったことある?」
「ううん……ない」
盛り上がらない会話。ケーキにも川北くんのバイト先のことにも、まったく興味がないから返事のしようがない。
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