拒否反応

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嶋野さんに話させっぱなしで歩いていると、その店の看板が見えてきた。"シエル・ エ・ニュアージュ"と書かれている。近づくにつれて甘い匂いが強くなってきた。 「ごめん、嶋野さん。私、連絡するところがあるから、ここで待ってるね」 これ以上は近づけないと思った私は、嘘をついて立ち止まる。 「うん、わかった。ごめんね、行ってくる」 すると、嶋野さんはそう言ってお店へ駆けていった。 考えてみれば、今嶋野さんにお母さんへ電話を入れてもらえばよかった、と思い至る。ここまで付き合い、彼女が買い物を済ませるのを待ってまで、無理して嘘などつく必要もなかった。ケーキの甘い匂いに意識がいってしまい、頭が回っていなかったようだ。少し立ち眩みがして、歩道脇の石垣に背中をもたれかける。 それにしても嶋野さん、お母さんが来てくれるなら、はじめからケーキも取りに行ってもらえばよかったのに。川北くんのバイト姿をそんなに見たかったのだろうか。やっぱり彼女は川北くんのことが好きなんだろうな。 「あれ? なんで瀬戸がいるの?」 ふいにかけられた声に顔を上げると、川北くんがいた。 「え? 川北くん、バイトしてたんじゃ……」 私は驚いて、石垣から背中をはがす。 「今からだけど。学校から歩いてきてるから、どう見積もってもまだだろ。瀬戸はバスだから速いだろうけど」 「ああ、そっか……」 やっぱり嶋野さんは天然だ。川北くんのバイト姿を見たいなら、ちゃんとシフトの時間を確認しておいてほしい。
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