拒否反応

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「ていうか、これ、無事か?」 川北くんが地面に落ちたケーキの箱を指差した。その瞬間、私の心臓が変な鼓動を打つ。箱の中身を見てはいけない。とっさにそう思ったのだ。匂いじゃない、何かもっと別のものが私に警笛を鳴らしている気がする。 「あ! そうだった! やばいかも、けっこう衝撃があったから……」 開けないで! そう言おうと思ったのに、声を発することができなかった。汗が噴き出て、指先が冷えていく。脈拍が急激に上がっていくのがわかる。まるで頭の中でサイレンが鳴っているようだ。 「……いで」 何度も唾を飲み込み、声を出そうとする。 「おい、瀬戸。顔が真っ青……」 近くにいるはずなのに、川北くんの声が遠くに聞こえた。 「……やっぱり」 続いて嶋野さんのがっかりするような声。しゃがみ込んで箱からケーキを引き出した彼女は、私たちに見せるように歪んだケーキをこちらへ向けた。きれいに塗られていたはずの生クリームはぐちゃぐちゃになっていて、イチゴはいくつか潰れている。それなのに甘ったるい匂いだけがしっかりと鼻を刺激して……。 「あーあ……どうしよう」 悲しそうにそう言っている嶋野さんが、おぼろげになる。そこにいるのは嶋野さんのはずなのに、誰か別の人を見ているみたいだ。ただ、その歪んだケーキだけが鮮明に私の目に映る。 見たくない。そう思って目を閉じた直後、私の頭の中にいろんな映像が浮かんできた。わくわくしながら帰った家までの道のり、蛇口から出てくる冷たい水、テーブルに置いてあったはずの大きなケーキ、お父さんとお母さんが言い合う声。
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