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目を開けると、見慣れない部屋のソファーに横たわっていた。
「あ、よかった。起きた!」
声がした方を向くと、私の顔を覗き込む嶋野さんがいる。
「あれ……私……」
「瀬戸さん、外で倒れたから、店長さんと将真くんがお店まで運んでくれたんだよ。顔が真っ青だったんだけど、ここに着いた頃には顔色が戻ってたから、店長さんがちょっと様子を見ようって言って、スタッフルームを借りてたの」
ゆっくり起き上がると、ほのかにケーキの匂いがした。鼻を押さえながら嶋野さんにたずねる。
「私、どのくらい寝てた?」
「二十分くらいだったかな」
「ごめんね、嶋野さん、付き添ってもらって……。もう大丈夫だから、ひとりで帰るよ」
立ち上がろうとすると、慌てた嶋野さんが、私の肩にそっと手を置いてまた座らせる。
「うちのお母さん、もうすぐ来るはずだから、一緒に送っていくよ。ごめんね、結局お店の電話を貸してもらったんだ」
「家はすぐそこだから、大丈夫だよ」
「だめだよ、瀬戸さん。貧血を馬鹿にしちゃ」
嶋野さんにしては珍しく力強い口調だった。その勢いに気圧された私は小さくうなずく。嶋野さんの中では貧血ということになっているらしい。川北くんは、私のケーキに対する拒否反応のことを言わなかったのだろう。
そのとき、コンコンとノックの音がした。
「萌香、お母さん、来たぞ……って、起きた?」
三角巾にエプロンをした川北くんが顔を出す。
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