拒否反応

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「もう大丈夫だから。店長さんにも、謝りに……」 そう言って今度こそ立ち上がると、 「あぁ、店長はうちの叔父さんだし、気を遣わなくていいよ、伝えとく。あ、そこの裏口から出ればすぐ外だから、そっちから出て」 と、説明だけしてさっさと店に戻っていった。 「もう、将真くん、もう少し優しい言い方してくれてもいいのに。あ、代わりのケーキを受け取ってくるから、先に裏口から出ててね」 嶋野さんがそう言って部屋を出ていく。けれど、私には川北くんの気遣いがわかっていた。 ショーケースがある店内や調理場はケーキの匂いがすごいから、こっちには来るな、ということ。裏口から出れば匂いがうつった自分や店長に近づかなくて済むということ。そして、すぐにここを出て帰ったほうが気分はよくなるはずだということ。 「…………」 そういえば、おぼろげだけれど覚えている。彼を昔のように"将ちゃん"と呼んでしまったことを。ほかにも何か言った気がするけれど、それ以上は思い出せない。 通路はスタッフルームよりもケーキの匂いが強かった。口を手で覆いながら早足で裏口から出た私は、目を閉じてため息をつく。匂いよりも、ぐちゃぐちゃになったケーキが頭にこびりついて離れなかった。 『結子ってケーキが苦手だったんだっけ。それ、小さいときから? 理由とかあるわけ?』 沙和との会話がよみがえる。なんでケーキが苦手なのか……ほかの人からも今まで に幾度となく聞かれてきた。 『わからないけど、アレルギーみたいなものじゃない? 気づいたら、受けつけなくなってた』 そう、わからないんだ。ただ、ケーキのことを考えると、記憶の底の真っ黒な沼から何かがはい出てきそうで、怖くて気持ち悪くてしかたがない。  
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