拒否反応

22/36

5247人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
あの絵本のことは忘れたいのに、胸の奥からどろどろしたものがせり上がってくる。それを体内にとどめておけなくて、私の口を無理やり開かせる。 「なんで……」 「ん?」 「なんで、なんてことなかったかのように言うの?」 昨日から変だ、私。いや、川北くんと再会してからずっと変。自分で自分の気持ちを制御できない。 「なんてことなかったって?」 「どうしてわからないの? 私の大切な絵本を破って、悪かったとか、ごめんとか、謝るべきじゃないの?」 「…………」 川北くんは、本をかかえたままこちらを見た。その目は冷ややかで、まるで私を軽蔑しているようだ。 「謝らないよ。だって、俺、ああしたこと後悔してないし、悪かったとも思ってないから」 「……は? ちゃんと思い出してよ。どれだけ私が……」 「ていうかさ、ちゃんと思い出せっていうのは、こっちのセリフ」 川北くんが一歩ずつ私に近づいてくる。 「な……に言ってるの?」 強く発したはずなのに、震えて弱々しい声が出た。 「たぶん、ケーキの匂いがだめなのも関係してる。瀬戸は、あの日のことを記憶の隅に追いやって、忘れたふりをして、自分で鍵をかけてる」
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5247人が本棚に入れています
本棚に追加