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「絵本の破いた部分、俺がまだ持ってるよ。今度持ってこようか?」
「いい。もういらないから、離して」
「瀬戸、あのときの話をちゃんとしよう。どうせ、瀬戸は俺との約束のことも覚えてないんだろ?」
「知らない。いいから離してよ!」
無理やりその手を引きはがそうとしたけれど、川北くんの力が昔とはまるで違う。あの幼い頃の将ちゃんじゃない。いや、もともといなかったんだ、私の味方だった将ちゃんなんて。思い込みで、勝手に私の王子様だと勘違いしていただけで……。
「瀬戸さん、いる?」
腕を振りほどこうと力を込めたとき、準備室のドアが急に開いたことで、私の肩が強張る。そこにいたのは戸崎くんだった。
「……え?」
そう私が言ったと同時に、戸崎くんも同じように声を出した。川北くんが私の腕をつかんでいることに驚いたらしい。
「何してんの? 将真」
「何って……話してただけだよ。お前はなんでここに? 俺に用事じゃないの?」
「瀬戸さんが図書室にハンカチ忘れてたから、届けに来ただけ」
飄々とそう言って、戸崎くんが一歩部屋の中に足を踏み入れる。そしてポケットから私のハンカチを取り出し、「はい」と差し出してきた。
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