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「……ありがとう」
そう言うと、するりと川北くんの手が私からはがれた。
「空気、悪いね」
戸崎くんからハンカチを受け取ると、彼はいつものように微笑んでそう言った。私は少し気まずく感じていたけれど、戸崎くんはとくに気にしていないようだ。川北くんは、何も言わずにまた本棚整理に戻る。
「先生は?」
戸崎くんがおもしろそうに室内を見渡しながら聞いてくる。
「いることのほうが少ないよ」
「じゃあ、いつもこんな空気なの?」
ふっと噴き出した戸崎くんは、今までで一番口角が上がった。川北くんがいるからだろうか、図書室にいるときよりも自然に笑っている気がする。
「あ、そうだ、瀬戸さんってさ、水曜日のラジオ聴いてるんだったよね? 投稿小説の」
「え……あ、うん」
なぜ急にそんな話をするのだろう。戸惑いながら返事をすると、戸崎くんはなおもおもしろそうに、
「僕は三年前から聴いてるんだ」
と、続ける。
「そう、私は二年前から……」
「僕は親にすすめられて聴きはじめたんだけど、おもしろいよね」
親……。そうだ、戸崎くんのお父さんは戸崎宗敏だ。
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