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戸崎くんの背中を見送り、ゆっくりと本棚の整理に戻った。なんとなく、川北くんの顔は見れない。
「えらく仲がいいんだな。短編集、なかなか返さないのはそのせい?」
少しして、川北くんが作業をしながら聞いてきたけれど、私は返事ができなかった。
どう答えても、嫌味が返ってきそうだったからだ。
「それで、なんの話をしてたんだったっけ? ……あぁ、俺が結子の邪魔をしたって 話か。俺のせいで、いろいろだめになったって」
「…………」
「関わりたくなくて、許すこともできないんなら、たしかに話しても意味ないね」
川北くんは、薄く笑った。さっき、腕を強くつかまれたときとは打って変わって、なんだかもうどうでもいいというような、諦めたような表情に見える。
「明日から、ここの掃除はほかのやつに代わってもらうよ」
そう言って、最後の一冊をストンと棚におさめた川北くん。やっと彼と関わらない平穏な日々が送れるというのに、胸の奥が小さく痛んだ。針で刺されたようなその痛みは、私の中で毒のようにジワジワと鈍い熱を広げはじめる。
ちょうど、掃除終了のチャイムが鳴った。川北くんは私の横を通って、何も言わずに準備室を出ていった。
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