拒否反応

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翌日から、嶋野さんが川北くんの代わりに国語科準備室の掃除に来るようになった。嶋野さんには、女子同士のほうがいいだろうから掃除場所を代わってほしい、と言ったみたいだ。 教室ではもともと話さないし、掃除場所が違えば本当に接点はない。心を乱すこともなくなり、私にはようやく今までどおりの生活が訪れていた。 「結子、お母さん今日近所の人に聞かれたんだけど」 それからまた何日かしてからだった。学校から帰ると、夜勤前にご飯の準備をしていたお母さんが、いつもよりまじめな顔をして話しかけてきた。 「ちょっと前に歩道で倒れて運ばれなかった? ほら、あのシエルなんたらっていうケーキ屋さんのそばで。近くを通りかかったときに見たみたいで、お宅の娘さんに似てたけど違ったかしら、って言われたの」 「…………」 お母さんには心配をかけさせたくなくて、倒れたことは言っていなかった。 「本当なの?」 「……うん」 「なんで黙ってたのよ。自分の娘が倒れたことを知らないなんて、お母さん悲しいわ」 返事をするや否や、お母さんは心配と落胆が入り混じったような声で言う。 「それに、運んでくれた人って誰なの?」 「そのケーキ屋さんの店長さんと……バイトの人。少しだけお店のスタッフルームで 休ませてもらって……」 口ごもりながら説明すると、お母さんはため息をついた。
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