押入れの中の絵本

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押入れの中の絵本

べつに、川北くんに言われたからではない。けれど、翌日の昼休み、私は図書室に来ていた。 図書室は教室から離れた別棟にある。入口を開けると、中には、貸し出しカウンター、整然と並んだ本棚、一番奥に自習や読書ができるスペースがあった。 中学のときとは規模が違うその蔵書の数に、私の胸は高鳴る。絵を描きたいと思える本に巡り合えるのが嬉しいからだ。 えっと……小説の棚はここかな? "戸崎宗敏"……"と"だから……。 「……あ」 あった。そう思って思わず小さな声を出してしまったときだった。読書スペースに座っていた人が顔を上げた気配がして、私も反射的にそちらを見た。 そこにいたのは戸崎くんだった。すぐに名前が頭に浮かんだのは、彼が戸崎宗敏の 息子だと聞いていたからだ。そういえば、図書室にいるかもと嶋野さんが言っていた。やっぱり彼の目元は厚い前髪に隠れていたけど、たしかにこちらを見ている。 掃除の時間に少し話しただけだし、挨拶なんてする必要はないのかもしれない。ただ、どうしても戸崎宗敏の息子という情報が頭に引っかかり、目線を外せずにいた。何か話しかけたほうがいいのだろうかと考えていたら、彼のほうが先に口を開く。 「瀬戸結子」 興味があるのかないのかわからないような声色だったけど、突然名前を呼ばれて驚いた。 「……なんで知ってるの?」 「将真に聞いたから」 川北くんから? 私のどんな話を聞いたというのだろう。なんにせよ、きっといい話ではないだろう。
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