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まず、第一に。朱天の宮に住む姫君達が哀しむだろうから、である。『入内』することを憂いていても、家族や友垣等への『情』がなくなったわけじゃない。
そうして、里心がついた姫君達は、きちんと京に帰してやっている。その際に、朱天達や大江山に関する記憶は、消させて貰っているが………。
大江山の安全を護るため………そして何より、姫君達が人間の世界にすんなりと戻れるように。
実際。そうして京に帰った姫君達もいる。二の姫以下、鬼達と『恋仲』になった姫君達は、そんなこともないようではあったが………。
二つ目の理由は、朱天自身が平安京を慈しんでいたから。京自体を、そしてそこで暮らす人々を。
人間に酷い目に遭わされた経験があるにも関わらず、朱天は人間を恨んだり、憎んだりはしていないからである。
朱天は、人間の脆さと儚さを慈しんでいるのだ。脆いからこそ哀れで、儚いからこそ美しい。
その儚いが故の美しさは、朱天達大江山鬼族には、持ち得ぬものだったから。だから、尚更に愛おしかったのだ。
平安京があればこそ、茨木や姫君達に出逢うに到ったのも、動かしようのない事実であったからだろう。
そして、三つ目は。父である初代酒呑童子が、元々人間として京に生を受け、育ったからである。
鬼に変じたとは言え。平安京を、父・酒呑も慈しんでいたからだ。
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