その頃の茨木~平安京にて~

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-平安京 某所- 「ふ………僅か十人足らずとは笑わせる。我等も見くびられたものよ。」 (※頼光を筆頭に、四天王と藤原保昌の六人。)  そう呟く茨木の口許には嘲笑が浮かんでいたが、その表情は『嫌悪』に歪み、隻眼にははっきりとした『怒り』の炎が揺れていた。  大江山鬼族を見くびると言うことは、すなわち、それを率いる朱天を見くびられるのと同じことだからだ。  首魁としての朱天を尊敬するとともに、女としての朱天を愛してやまぬ茨木としては、許せるものではないのだろう。  朱天の命さえなくば、怒りに任せ、八つ裂きにしていただろう。それだけの『妖力(ちから)』が茨木にはあったのだから。  元よりの隻眼鬼ではなかった茨木だが、隻眼となってからも、その『妖力(ちから)』に変わりはなかった。  首魁の朱天に次ぐ実力者なのである。次期首魁の座に一番近い立場にいるが、茨木は四天王ではない。  本来、茨木は四天王であってもおかしくはないのだが、茨木は地位や権力に興味がなかった。  大江山鬼族全てを、家族同然に扱う朱天を始め、地位に固執・執着する者や、権力に対する野心を持つ者は、殆どいないからかも知れないが………。  茨木は、それに輪を掛けて、欠片程の興味さえも持たぬ。茨木の場合。極論で言えば、朱天以外に興味を抱くことがないのだろう。  いつだって、茨木の心の中は朱天だけ。朱天で一杯なのだ。想うのも、慈しむのも朱天だけで、朱天の全てを知りたいとも思う。 -恋しくて、愛しくて。朱天以外、欲しいも  のなど、ありはしないのに-  どれほど近くにいても、朱天の心は遠くて遠くて遠すぎて。手を伸ばしても届かない、触れることさえ出来なくて………。
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