その頃の茨木~平安京にて~

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 どれだけ想っても、決して報われることはないのだと、それもわかっていたけれど。  だからと言って、そう簡単に諦めることなど出来ようはずもない。想い続けて、幾星霜過ぎたかもわからぬほどに。  朱天だけを見て、朱天だけを想い、朱天だけを求めてきた。狂おしいまでに焦がれて焦がれて………こんなにも、ただ一人だけに恋い焦がれることが出来るのか、と自問したことも、幾度あったのかさえ覚えていないくらい。  この日の本の国ですら、朱天と替えられるものではない。茨木にとっては、この世の全てよりも朱天が勝る。比べるべくもない。    -ただただ、朱天だけが欲しくて-  心も躰も魂さえも………朱天の全てが、自分だけのものになればいい。それが不可能だとも理解していたけれど………。 「たった六人で、何が出来る?」  朱天は『軍容が知りたい』と言っていたが。そもそも、何百・何千の軍勢でも、大江山を囲む結界を突破できるとも思えない。  大江山を囲む朱天の結界は『八門遁甲』と同じようなもの。正しい道順を知らねば、死ぬまで大江山の山中を彷徨うだけだ。  結界内外を自由に行き来出きるのは、朱天と茨木、そして四天王だけなのだ。大江山に巣くう雑鬼でさえ、朱天の宮には近付くことさえ出来ない。 (※雑鬼どもは勝手に棲みついただけで、大江山鬼族ではないから。)
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