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もしかして、南波は不安なんだろうか。もちろん、今の俺との関係に対してではなく、自分自身の在り方を疑問に思っているんじゃないか。ふと、そう思った。
ただの思い込みで俺は、南波が外面も内面も優れている完璧人間だと思い込んでいたが、本当の彼は繊細で不安定な、ただの少年なのかもしれない。
そんな弱々しい一面を俺にだけ見せてくれたことが、だんだん嬉しくなってきて俺は南波の首筋を撫でた。
「まあ、いいんじゃね。どんな理由であっても、テスト如きの点数で俺はお前に負けるつもりないし」
「なんだよ、それ……。つーか、なんでお前そんなに頭いいの?」
「別に頭は良くないよ。ただ勉強が得意なだけで。昔、『貧乏人の子供は、貧乏な家庭しか築けない』みたいなこと言われたのが、すげえ悔しくて」
南波の言葉を借りれば、俺は他人から下に見られたくなかったのだ。
「そっか……。でも、それはそれで筋が通ってる行動じゃん。俺と違って……俺なんて親とか他人の目が気になるから頑張ってるだけなのに。少しくらい自分らしく生きたい」
「なら、今からやれば。自分らしい生き方ってやつを」
「……それは、実はもうやってる」
南波は俺の上にのしかかり、唇にチュッと軽くキスをして笑った。
「俺はね、みんなにとって『いい人』になるより、誰か1人の『特別』になりたい。1番、というかオンリーワンになりたいんだ」
少し照れ臭くなって、俺も笑う。
「今までの彼女たちはどうしたんだよ。まさか童貞じゃないんだろ?」
「あはは、それを突かれるとちょっと痛いな。でも、あれは女の子にとって都合の良い彼氏を演じてただけだから。あんまり長続きしないんだよ。セックスも向こうばっかり気持ち良くなっちゃって、こっちは微妙だし」
「お前、どうしようもなく酷い男だな」
「そうだよ。嫌いになった?」
「別に。単なる完璧なイケメンじゃないってわかって、むしろ好きになったかも」
南波はにやりと口角を上げて、俺の目をじっと覗き込んだ。
「そんなやつ、本当に好きになっちゃっていいの? ……俺、絶対に逃さないよ。啓介のこと」
「あっそ。でも、俺、めんどくさい男だからそのつもりで。お前みたいなイケメン、死んでも手放さないから」
俺みたいな陰キャ根暗が、こんなイケメンと付き合える機会なんてこれが最後だろう。万が一、南波との仲が決裂したら俺はあっさりと死を選ぶかもしれないし。
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